この世に生まれ落ちた次の瞬間から、
人は布にくるまれ 、
そしてその生涯のほとんどの時間を、布に包まれてすごす。
布は、あらゆる物の中で、最も長い時間、人間と共に在る物と言えよう。
そして、太古の昔から、人は布に大きな意味を持たせてきた。
ドゴン族の神話では、機織りは人の言葉の獲得を象徴する重要な儀式であるし、
ギリシャ神話の宿命の三女神も、紡ぎ手であり織り手である。
また、日本神話においても、最高の太陽神"天照大神"は、機織り姫でもあった。
織物の縦糸と緯糸の交互運動は、そのまま陰と陽の交代を表わし、
世界は女神によって永遠に織られ続ける、一枚の織物にたとえられる。
布は、人間にとって、生活に欠くことのできないものであると同時に、
神に捧げられた聖なる供物でもあった。
だからこそ、世界中にこれほど多種多様の技法を凝らした布が
生みだされたのだ。
そして、人々は、布のなかに聖なるシンボルを織りこみ、
あるいは、刺繍し、 その力の加護によって、
愛する家族が魔から守られる事を願った。
アンティークの子供用の民族衣装の、
気の遠くなるような手間と時間をかけた仕事の中には、
現代の生活からは失われてしまった、地母神への深い祈りを感じる。
また、そうした布は、財産として、何代ものあいだ親から子へと受け継がれ、
その命を全うした。
しかし、産業革命以降、機械化により大量生産された布は、
かつて"一枚の布"が持っていた意味を変えてしまった。
聖性は失われ、布はただの消耗品となった。
布の寿命のサイクルはどんどん短くなり、用がすめばゴミとして廃棄された。
そして、代々伝えられてきた布もまた、
時代にそぐわない不要品として見捨てられた。
けれど、ここ数十年、新しい意識の潮流が、
産業社会全体を変えつつある。
大量消費の結果、人間が作り出した膨大な産業廃棄物や汚染物質が
この地球環境の存続に関わるまで深刻化した結果、
もはや、意識と生活を根本から変えるしか生き残る道がなくなったからだ。
低エネルギー、資源の再利用、
自然に還元されうる素材、 農薬や化学物質の使用制限、
それらは、どんな種類の産業においても、絶対命題となりつつある
この流れが後戻りすることはもはや有り得ないだろう。
繊維産業においても、 オーガニックコットンやヘンプ製品などの流れが
徐々に大きな比重をしめつつある。
そんな中で、各地の伝統的な素材や工芸文化もまた、
新しい意識の眼で捉え直されるべきだろう。
工芸家は、単なる伝統文化の継承や、懐古趣味にとどまらず、
より大きなムーブメントの一端を担っていく自覚を持つべきであると思う。
そして、世界のあらゆる国々に埋もれている、自然と共生する技術の数々が、
この星全体の共有知識として利用されれば、
この危機的状況に一条の光をもたらすに違いない。
世界に名だたる工芸を生み出してきた、
"日本"から発信できる情報も多いはずだ。
そしてその一つとして、わたしは"裂き織り"をあげたい。
裂き織りは、東北地方や日本海沿岸の地方で生まれた。
それらの寒冷地では、綿花の栽培ができなかった。
貴重品であった木綿布を最後まで生かしきるために、
もはや布として用をたさないほど、擦り切れ、薄くなった布を裂き、
緯糸に織り込み、もう一度、新しい布として再生したのだ。
そうして、織られた布は丈夫で風を通さず、
防寒、防水性に優れ、労働着として用いられた。
この徹底した素材の再利用の仕方には見習うべきものがある。
わたしの工房では、手に入りやすいこともあって、
素材には主に絹の古布を使い、 ベストに仕立てているが、
10年以上着てもまったく型くずれせず、
北陸の真冬でも軽く暖かで、実に重宝している。
また、古い着物をほどいていると、
何度も染め替え、仕立て直した後が見えたり、
表からはまったくわからないくらいの細かい針目で、
布をあてて補修してあったり、
古人の布に対する深い想いに触れることができる。
そうした想いを受け継ぎつつ、新たな時代の必要性にも即した布を作り出し、
"一枚の布"が持っていたパワーを、少しでも取り戻したい。
それが、わたしの、ポリシーである。
福島あずさ@studio-tao