アジア布通信

月1回お送りしている、アジアの布をテーマにしたメールマガジン”アジア布通信”を
再編集したページです

アジア布通信 第30号より

秋といえば、どんな色を思い浮かべますか?

わたしは、特にこの季節の夕暮れの空の色が大好きなんです。
天高くたなびく雲が夕焼けに染まって、
燃えるようなオレンジから、だんだん紫に変わっていく様子は
毎日見ても感動してしまいます。

そんなわたしにとっての秋の色、 「茜」についてお送りします。

「茜」という名前は「赤い根」に由来します。
日本に限らず、世界各地で赤を染める染料として用いられてきた植物です。
古くは、紀元前のインダス文明の遺跡からも、
茜染めの布が出土しているそうです。

茜には、ヨーロッパからアジア全域に分布する”六葉茜”、
東南アジアから沖縄にかけて分布する”ヤエヤマアオキ”、
中国や日本で産する”日本茜”などの種類があります。

あかね染めショール
◆ このうち、西洋茜とも呼ばれる”六葉茜”は、
ヨーロッパでは、薬用ハーブとしても用いられ、
利尿作用、通経作用などがあるといわれています。

 根にアリザリンという赤色色素があり、
煮出して、明礬で発色させると、
”ターキーレッド”と呼ばれる鮮やかな赤になります。

 アンティークのイランやトルコの絨毯や、
古渡りのインド更紗などのほとんどはこの茜の赤です。
この色素は非常に堅牢で、初めて作られた合成染料も、
このアリザリンを元にしたものでした。

◆ また、茜は色を定着させる媒染剤を変えることにより、
オレンジがかった淡赤〜深い赤〜紫まで、
様々な色合いを出すことができます。
これを利用したのが、インド更紗と呼ばれる木版染めです。

その作り方は次の通りです 。

1.まず、木綿地をタンニンを含む染料で下地染めします。
2.そこに、鉄、明礬、鉄と明礬の混合液などの媒染液を木版につけ、
ポンポンと押していきます。
3.それを茜を煮出した液で染めます。
4.すると、鉄の部分はタンニンに反応して黒に、明礬の部分は赤に、
混合液の部分は紫に発色します。
5. さらに、それに防染糊で染めたくないところを伏せてから、藍がめにつけます。
これで、青が加わります。
 6. そのあと、黄色の染料で色をさせば、緑になります。

これで、華やかな色合いの更紗ができあがります。

インドでは、このほかにも、 ”チャイ(Chai)”と呼ばれる別種の茜もあります。

ヤエヤマアオキ”は、東南アジアの浜辺などに育つアカネ科の常緑低木で、
樹皮から黄色、根から赤の染料がとれます。
インドネシアのイカットの赤を染める染料として有名で、
現地では、”コンブ、スンティ”などと呼ばれます。

 赤を染める場合は、根を天日で乾燥させ、 細かく砕いて粉状にします。
これに、媒染剤代わりの木の粉を混ぜ、 水で練って、泥状にします。
その中に、糸や布を漬け込んで染めます。
濃く染めるには、場合によっては数年かかることもあるそうです。

 これと同種の植物はインドにもあり、”アル(al)”と呼ばれています。
ちなみに、ヤエヤマアオキは、ハワイなどのポリネシアの島々では、
ノニ”と呼ばれ、その実のジュースを薬用として飲む習慣があるそうです。
それが、健康飲料として近年話題になっているとか...


◆ 日本に自生する”日本茜”はつる性の多年草で、
日当たりのいい、山地や畑地によく見られます。
小さなハート形の葉が、対に四方向に出ているのが特徴です。日本茜

万葉集の時代から赤を染める代表的な染料でした。
有名な額田王の
茜さす紫野行き標野行き 野守りは見ずや君の袖振る
という歌にもある”茜さす”とい言葉は、
”日、照る、紫”などにかかる枕詞でした。
様々に変化する茜の色にたとえた詞だと考えられます。

日本茜の色素成分はプルプリンといい、
アリザリンと違って、黄色色素が多く含まれています。
そのため、そのままでは、黄味の強い赤しか染まりません。

鮮やかな赤を染めるには、
根をお粥で煮て、黄色色素を吸収させるなどの前処理が必要です。
その後、椿などの灰汁で発色させます。
含まれる赤色色素が少ないため、大量の根が必要です。

漢方では「茜草」という生薬になっており、
利尿や止血薬、通経薬として用いられています。同種の茜はアジア各地に分布しており、
チベット仏教の赤茶色の僧衣を染める染料としても使われていたそうです。

わたしは、普段はもっぱら西洋茜を使っていますが、
茜を煮出しているときの、 なんともいえない良い香りが大好きです。
実際、染めているうちに、なんとなく血のめぐりが良くなってくる様な気もします。

あとは、やっぱりあの色!
華やかながら落ち着いた茜色、いいですねー。