月1回お送りしている、アジアの布をテーマにしたメールマガジン”アジア布通信”を
再編集したページです
アジア布通信 第29号より
今回の布通信は、ブータンへの染織の旅などを企画していらっしゃる、
ヤクランドの久保淳子さんに、ブータンの布について寄稿していただきました。
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■ブータンの布 お祭りの衣装への思い出

もう10年も前になりますが、
夢が叶ってブータンに2年間滞在いたしました。
そのときの、思い出話を聞いて下さい。
仏教国ブータンのお祭りはテレビや雑誌でご覧になった方も多いでしょう。
動物や神々の面をつけた踊り手が、跳躍を繰り返すダイナミックな舞踊。
ずっと待っていたお祭りの日には、何時間も歩いて村々から人々が集まってきます。
私も初めて見るお祭りを、何ヶ月も前から心待ちにしていました。
そして、ブータンの人と同じように美しい手織りの衣装を手に入れようと、
町のお店を1件1件覗いてみました。
ところが、不思議なことに、お店ではあまり売っていないのです。
そのときにわかったことですが、
ブータンでは自分のための衣装は、 誰かに頼んで織ってもらうのが普通なのでした。
といっても、プロの染織家がいるわけではありません。
普通の家庭の奥さんの中で、織りが上手な人をさがして、
色やデザインを指定して、自分のサイズに織ってもらうのです。
私も、知り合いの奥さんに織ってもらうことにしました。
私の好きな臙脂色をベースに、シルクの色とりどりの糸で模様を織り込んでもらいます。
ときどき、遊びに行くと、
「あなたのキラ(女性の衣装のこと)がこんなに出来てきたよ」と、 見せてくれるのでした。
甘いミルクティーをいただきながら、
タッ、タッ・ターンと、糸を打ち込んでいく、力強くて、子守唄のように優しい音を聞いているのが好きでした。
ブータンの織機は、床に座り、腰にベルトを廻してつっぱる後帯機です。
とても単純な道具の上で、魔法のようにきらびやかな模様が生み出されます。
それに、私が大好きだったのは、
模様の見本も図案もなく、ほんの少しだけ織った模様が見えているところに、
ぱっと手にとった糸を合わせて、心にぴったりくるものを織り込んでいくところでした。
最後に織り上げた布を広げてみると、
たくさんの色が使われているのに、全体としてぴったりと調和しているのです。
なんだか、神様が人間の手を使って布を織っているみたいな気がしました。
さて、3ケ月後、いよいよ私の衣装が出来上がりました。
衣装の色合わせて、臙脂色に黄色の正装用スカーフも作ってもらいました。
これで、お祭り準備完了!
友達のアドバイスによると、お祭りの最後の日にとっておきの一枚を着るのだそうで、
初日はやや地味なもの、2日目は少し派手なものを着るとのこと。
同じものを2日続けて着るのは、ファッションセンスが許さないらしく、 みんな、交換しあって着て行きました。
いよいよ最終日に、私のとっておきを着て、ワクワクしながらお祭りへ出かけました。
友人たちから「とってもいい織り込みだねぇ」と言われると、 とっても誇らしかった気持ちを今でも覚えています。
織りの上手な人を探すまでの苦労、デザインや色を考える楽しみ、 少しずつ織り進んでいく様子を見る喜び、
そんな時間をたっぷり含んだ私の民族衣装は、今でも当時の思い出がいっぱいつまっています。
あー、やっぱりブータンって本当に豊かな国だなぁ、と、
布を手にするたびに思うのです。
■続いて、ブータンの染織についての簡単な説明をいたします。
ブータンの布の多くは、後帯機で織っています。
一番きらびやかで有名なものは、
「片面縫取織り」技法を用いた女性の盛装用の衣装です。
白や青、最近では黄色、赤などの地色の上に、
色とりどりの模様糸を加えて、
まるで刺繍のような緻密な模様を織り込むのですが、
その模様は表側だけで、布を裏返しても模様は見えません。
また、中でもティマ(ねじり)というチェーンステッチのように見える模様は
難しい技術で、一見同じように見える布でも、
このティマがたくさん使われていると値段もぐっと高くなります。
ちなみに、女性の衣装「キラ」は、
織った布をそのまま3枚剥ぎあわせ、
ちょうとシーツほどの大きさの長方形にしたものです。
それを、肩に銀のブローチで留め、
帯をきゅっと締めて体にぴったり巻きつけます。
「片面縫取織り」に対して、「両面縫取織り」もあります。
裏表の模様がちょうど反転して見える織り方で、
幅広の帯や、肩にかける正装用スカーフなどに用いられています。
衣装そのものに使われているのは見たことがありません。
また、東部の村では、野生絹を自然の色で染めた布ブラがあります。
ブラにはシンプルな平織りの布もありますが、
名なのは「経浮織り」で立体的に模様を表現したものです。
女性の衣装にもなりますが、
今では男性の盛装用の衣装の代表になっています。
男性の衣装「ゴ」は、日本の着物に似た形です。
ただし、着るときに、膝までたくし上げます。
(ブータン人の男性の足は、ほっそりして美しいですよ!)
寒冷な地方では、ウールの織物もあります。
チベットからもたらされた高機で織る綾織の布には、
やはり草木の色の模様が散りばめられ、 ソファーカバー、レインコートなどに用いられています。
ところで、私が滞在中には、一度も目にしたことがありませんでしたが、
実はブータンは現在でも自然の染めがとても盛んです。
見たことがなかったのは 「染色しているところを人に見せると色が上手につかない」と
昔から信じられているため、隠れるようにして行うからでした。
主な染料は、ラック、茜(蔓も葉も根も全部使います)、 リュウキュウ藍など。
媒染剤にはボケの実を使います。
とくに、ラックは、昔からチベットに輸出され、
僧侶たちの衣を臙脂色に染めていたそうです。
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・・・・ヤクランド 久保淳子 ・・・・
プロフィール
14年前に添乗員としてブータンへ。現地滞在二年。
現在はフリーのブータン旅行アドバイザーとして旅行・講演会を企画中。
URL: http://homepage1.nifty.com/yak/ HPではトレッキングや染織事情を紹介。