月1回お送りしている、アジアの布をテーマにしたメールマガジン”アジア布通信”を
再編集したページです
アジア布通信 第28号
さて、前回から引き続いて、
タイ東北部イサーン地方の旅の後編をお送りします。
今回はスリンの手織り村訪問記です。
■ スリンは、タイの首都バンコクから、列車で約9時間、
イサーンの玄関口コラートからは約3時間半ほどの小さな町です。
年に一度、タイ全土から象が集まって行われる”象祭り”が有名で、
駅前にも、大きな象さんの銅像があります。
しかし、この町は同時に、タイシルクの名産地としても知られています。
バンコクなどで、いい感じの手織りのシルクを見つけてその産地を尋ねると、
大抵”スリン産だ”という答えが返ってきます。
■ スリンの手織りの村に行ってみようと思い立ったものの、
いつもながら、行き当たりばったりの旅の私達。
事前の情報源は、コラートのTAT(タイ観光局)でもらった、
薄いスリンの観光パンフ一枚だけでした。
列車を降り、スリンの駅前でさてと見回してびっくり。
”自転車”しかいない.!?
イサーンでも、コラートなどの大きい街では、
駅前にタクシー代わりのバンや自動三輪が止まっていて、その場で交渉できたんですが、
ここスリンの駅前には”サムロー”と呼ばれる自転車タクシーしかいないのです。
パンフによれば、スリンの手織りの村々はどこも町から20kmくらいは離れている様子。
とても、自転車で回れる距離ではありません。
しかも、ここは英語の通じない田舎町。
サムローのおじさん達も最初は寄ってきたものの、
我々がタイ語のわからない外人だとみるや 潮が引くようにいなくなり、
いつの間にか、駅前にポツンと寂しく取り残されてしまいました;;
しかし、いつまでも、ボーッとしている訳にもいかず、
とにかく、村まで乗っけてくれる車を探すことに。
TATでもらったパンフには、スリンの旅行会社の住所が載っていたので、
とりあえず、そこに行ってみることにしました。
■ 町の大通りを歩いていくと、 店先にシルク布や生糸を山積みにした問屋さんが
ぎっしり軒を並べているところに出ました。
さすが、シルクの町!なかなかワクワクする光景です。
あれこれ目移りしながら、町をうろついてみたものの、
肝心の旅行会社はさっぱり見当たらない。
そこで、ホテルだったら自前のツアー車をもっているのではと思いつき、
近くの大きなホテルを目指しました。
ホテルのフロントでは、いきなり現れた泊まり客でもない外人に驚きながらも、
とても、親切にしていただいて、 やっと車を手配してもらうことができました。
■ まず最初の目的地は、”Ban Khwao Sinarin”という手織りの村です。
スリンシルクでは、質の高い織り手が多いことで有名だということです。
市街からハイウエーを30〜40分ほど走って、ほどなく村につきました。
あたりは、一面水田が広がる農村地帯です。
豊かな緑の中に家が点在し、
各戸の1階の土間になった所に、織り機や糸巻きが置かれて、 村人達が仕事をしています。
さすがに、織りの名産地だけあって、
ほとんどの家が織りの仕事に従事しているようです。
ドライバーが村の人に一声かけると、 一軒の家に案内されました。
そこでも、2、3台の織り機の前で村の女性達がシルクを織っていました。
このあたりの織り機は、絣を織るためか、
全体の長さが3mくらいもあるとても大きいものです。

写真を撮らせてもらっている間に、
いつも間にか、土間にゴザがひかれ、
近所からおばさん達が
自家製の布を手に集まってきて、
あっという間に、
即席のお店ができあがってしまいました。
布を見せてもらって、
非常にバリエーションが豊富なのに
まず驚きました。
■ スリンのシルクというと、「Pha hole」と呼ばれる布が有名です。
これは、絵絣であらわした文様と、 ちいさな菱形の紋織りを組み合わせた特徴ある布です。
基本色は茶っぽいグレー、ピンク、白、緑などで、
絣の絵柄には、スリンの名物の象や、寺院、孔雀などがよく見られます。
打ち込みが強いため、表面に水をためることもできると言われています。 
その他にも、”Pha
sarong”という黄地に、
赤、緑、白の格子柄の布や、
”Pha am prom”という鮮やかな赤のベースに
黒の格子と白の飛び絣が組み合わさった布などがあります。
この村では、そのすべての柄をみることができました。
他にも、織り手が形式にとらわれず、
自由な発想で織った布が多く、
なかなか面白かったです。
”Pha hole”は通常ナチュラルダイ(草木染)だといわれて売られているので、
できれば、草木の染めも見てみたいと思っていました。
村の中の一軒でちょうど糸染めをしていたので、 急いでいってみました。
なんともいえない柔らかなピンクの染め上がりだったので、
てっきり草木染かと思ったら、科学染料だということでした。
草木染はもっぱらオーダーでしか作らないということで、
ちょっと残念でした。
■ 今度は、そこからさらに30kmほど離れた、
”Ban chan Rom”という村に向かいました。
ここは、khwao sinarinよりも、ずっと規模は小さいということでしたが、
蚕を飼っている村だということで、どうしても、行ってみたかったのです。
この村はタイ伝統の高床式の家がほとんどで、
床下の1階部分の土間にやはり織り機が並び、仕事場になっています。
連れて行ってもらった一軒の家で、
家の影に蚕を飼う棚を発見!
早速見せてもらいました。
直径50cm程の竹で編んだ円形のお盆に
桑の葉が敷き詰められ、
まだ、長さ3cmにも満たない数百匹の小さな白い幼虫達が、
頭を振り動かして葉っぱを食んでいます。
普段は、天敵や、直射日光から守るため、
上に薄い布をかけてあります。
タイの蚕は約45日くらいで繭になるそうです。
その繭は輝くような黄金色。
少し小粒ですが、あの小さな幼虫達がこんな風になるのかと思うと 感動しました。
ここでも、家の軒先がお店に早代わり(^^;
そこの家の奥さんが自ら育てた蚕の繭から、 紡いだ糸を見せてもらいました。
とても、手で紡いだとは思えないような、細くて素晴らしい金色の糸でした。
蚕を飼うところから始まる布作り、
大変そうだけど、やはりあこがれます。
■ イサーンはタイの中でも、開発が遅れたところといわれていますが、
旅してみて、むしろ、自然に囲まれた自給自足の暮らしの豊かさを感じました。
帰りの列車の窓から見た、イサーンの平原に沈む夕陽が
また格別の美しさでした。