アジア布通信

月1回お送りしている、アジアの布をテーマにしたメールマガジン”アジア布通信”を
再編集したページです

アジア布通信 第21号より

 先月末からうちのダンナが、山形の出羽三山に山伏修行にでかけまして、
昨日、無事生還してきました。
出羽三山の山伏の歴史は1400年前にさかのぼるそうです。

実は、染めの中にも、この山伏に起源をもつものがあるのです。
それが、今回のテーマ、”柿渋染め”です。
最近では、大手の繊維メーカーが、柿渋染めのスーツを発売するなど、
なにかと脚光をあびています。


■  柿渋とは、青い渋柿をくだいたものを搾り、
その汁を発酵させたものです。
ドロッとした液には強烈な臭気があり、
塗ると、日光によって、赤茶色に発色します。

■ これで、麻などを染めたものを”柿衣”といい、
古くから、山伏の法衣として、用いられてきました。
また、中世には、百姓一揆や、非人など、
一種のアウトカーストの人々の服として扱われるようになりました。

■ もともと、山伏が柿渋染めの衣を着た背景には、
柿渋のもつ、すぐれた特性が関係しています。

柿渋は、塗ると布の表面に膜をつくり、 布を硬くすると同時に強くします。
この強度が、野山を歩く際にも、 草木のとげや枝から、体を守ってくれます。
また、布の耐久性も増します。

そして、その防水効果。
雨露で体が濡れるのを防ぎ、汚れやほこりもつきにくく、 洗濯も簡単です。

また、防腐作用もあるので、汗などがついたままでも、 臭ったり、生地がいたむこともありません。

このような”柿衣”は、長期間山中にこもって修行する 山伏には、まさにうってつけの衣類だったのでしょう。

こうした、柿渋の特性は、魚網や、建材の補強、酒を搾る酒袋などにも、 広く応用されてきました。

■ また、柿渋のもつ薬効もみのがせません。
柿渋の中のタンニンには、高血圧を予防する成分が含まれており、
民間薬としても、使われてきました。
また、軽度のやけどや、切り傷の消毒にも効果があります。

柿そのものにも、多量のビタミンCを含む柿の葉、
しゃっくりや夜尿症の特効薬でもある柿のへた(漢方の柿蔕)など、
様々な薬効が確認されています。

こうした、薬にもなる染料で、衣類を染めることによって、
身を守ってもらいたいという願いを込めたのでしょう。

◇ カキノキ属に属する植物は、世界中で400〜500種あり、
アジア各地でも、柿渋染めは古くから行われています。

まず、韓国済洲島の伝統的な野良着である”カルオッ”。
日本と同じ青柿の実で、さび茶色に染めた上着とズボンです。
夏用の仕事着として、今でも着られているそうです。

タイの東北部などで、黒染めに用いられる”マックルア”(黒檀の実)も カキノキ属の植物です。
小さな黒っぽい実を、かめの中で発酵させて、黒を染めます。

また、東南アジアからインドにかけては、
ベンガル柿と呼ばれる種類の柿渋が、
魚網の染色などに使われています。

■ 日本では、日常的には、あまりみかけなくなった柿渋ですが、
田舎のほうでは、まだ”渋屋”さんが残っています。
家の裏手の納屋で、家内工業で作っていて、
買いにいくと、一升瓶にドボドボいれた柿渋をもってきてくれます。
今は、無臭の柿渋液も出ていますが、
これは、もちろん、ちょっと気の遠くなりそうな臭いのするやつです。

最初は、この臭いに閉口するのですが、
染めてから、2〜3ヶ月もほおっておくと、
うそのように消えてしまうのが不思議です。

■ わたしは、何年かまえから使っていますが、
木綿や絹の糸でも、染めるとサラサラした麻のような風合いが楽しめるので、
結構、重宝しています。

秋冬にかけての 茶系の色目が恋しいきせつ、
また、柿渋で染めてみようと思っています。

                azusa@studio-tao 2001/9/3