アジア布通信

月1回お送りしている、アジアの布をテーマにしたメールマガジン”アジア布通信”を
再編集したページです

 アジア布通信 第31号
               
    アジアを旅してると、よく蓮の花を目にします。
  今回の布通信は”蓮の文様”について取り上げました。

■ 日本で見られる”蓮”はハス科の植物で、
根はいわゆるレンコンとして食用になり、
種子は漢方薬にも使われます。
東南アジアからオーストラリア、
北アメリカに分布しています。
蓮の仲間には他に、
ヨーロッパからアジア全域に見られる睡蓮があり、
英語の”Lotus”という語は蓮と睡蓮の両方の総称です。

■ 蓮は、早朝花を開き、夜には閉じることから、
太陽の象徴とみなされ、
また水から生まれ、光の中に花開くことから、
火と水、光と影、生と死といった
相対する2つのものを表す花とされました。

また、泥水の中から茎を伸ばし、
神々しいばかりに美しい花を咲かせる様は、
世俗に染まらない高い霊性の象徴とも考えられました。

■ そのためその文様の歴史は古く、 紀元前の四大文明の時代にまで遡ります。
エジプト文明においては、 ナイル川の増水時に開花する蓮(睡蓮)は
生命や再生の象徴とされ、光の神オシリスに捧げられました。
また、その王冠に似た形から、王位そのもののシンボルでもありました。

神殿の柱を飾るロータス形柱頭と呼ばれる装飾や、
蓮の花を真上から見た形の”円花文(ロゼッタ)”などの
文様は、オリエントやギリシャローマの文化に影響を与えました。
中東に伝わった”円花文(ロゼッタ)”は生命の樹の文様や唐草文様と結びついて、
ペルシャ絨毯やモスクの装飾文様として発展していきます

■ 南アジアにおいては、インダス文明の遺跡から、
頭に蓮の花を飾ったテラコッタの地母神像が出土しています。ここでも、蓮は生命のシンボルでした。
それは、インド大陸でさらに結実します。
ヒンズー教の創世神話では、 まだ、世界が生まれる前のカオスの海で
ヴィシュヌ神が巨大な蛇を寝台にして眠っていたところ、 その臍から1本の蓮の茎がするするとのびて、
そこから咲いた蓮華から 創造神ブラフマーが生まれたと言われています。
また、ヴィシュヌの妻であり、富と繁栄の女神ラクシュミーも、
手に蓮を持ち、蓮の花を持った姿で描かれます。
蓮はインドでは最高位の花とされ、 ”蓮のような”という形容詞は最高の美女にたいする褒め言葉でもあるとか。

そのため、インドの布は蓮文様の宝庫です。
聖なる布とされる、グジャラート州パタンの縦緯絣パトラにも、 すそに蓮文様の絣柄が織り込まれています。
オリッサ州の絣の文様にも、 横向きの赤い蓮を模した柄がよくあります。
また、ベンガル地方の白地に色糸の刺し子”カンタ”にも、 中央に神々の座である蓮の文様を刺す図柄があります。
染めでいえば、ラジャスタンの鮮やかな絞りのターバンに見られる円花文様や
南インドの手描きの布”カラムカリ”など...
蓮にちなんだ文様がない布を探すほうが難しいくらいです。

■  インドで発展した仏教にも、その文様は受け継がれ、
蓮華文として、仏教の伝播とともに、アジア全域に広がっていきました。

タイやカンボジアなどのメコンの国でも、
仏教の守護と知恵の象徴として、絹絣の柄などに見ることができます。
また、ミャンマーのインレー湖畔では、
蓮の繊維からとった糸で織る蓮糸織りの布が生産されています。
これもやはり聖なる布として高僧への捧げ物などに使われるそうです。

■  中国では蓮はもともと君子の花とされ、
詩歌や工芸にも、好んで取り上げられました。

また、中国独自の意味として、 蓮を男女の愛のシンボルととらえる見方があります。
これは、中国語の”蓮”の読み方(リエン)と、
恋人や愛情を表す言葉”憐”の読み方(リエン)が同じためです。
そのため、中国では古来想いを寄せる相手に蓮の花を贈る習慣があったとか。
ここから、中国や韓国の婚礼衣装には、
吉祥の赤地に鮮やかな蓮の花が刺繍されたデザインをみかけます。

また、唐の時代には蓮華文と中国の国花でもある牡丹、
豊穣を表す、葡萄、柘榴をあわせた、
”宝相華”とも呼ばれる文様が生まれました。
この文様は日本にも伝わり、
正倉院文様として、今でも、礼装の着物は袋帯などに用いられています。
しかし、”宝相華”はいろいろな文様が混ざり合った空想上の花なため、
あまり蓮の形の面影はありません。

■ 日本においての蓮文様は 仏教の浄土思想と強く結びついて伝わりました。
そのため、蓮には抹香臭い花というイメージがつきまといます。
温帯の日本においては、 蓮の開花がちょうどお盆の時期と重なるのも
そのイメージに拍車をかけているのでしょう。

蓮華文も寺院建築や仏教関係の工芸に見られるだけで、
日常生活の中で使われることは、ほとんどありません。
アジアの町を歩くと蓮の文様がいたるところでみられるのと対照的です。
わたしの大好きな蓮文様が、 もっぱらお葬式のお饅頭の包み紙でしかみれないのは、
ちょっとさびしい気持ちです;;

Azusa Fukushima 02/12/20